老いのひとこと

学園点描

其の一

むかしは小使いさんと呼んだが少しばかり失礼ではなかろうかと用務員さんに呼び名を変えたが最近では更に校務士さんと名称が改められたらしい。

思い起こせばむかしの小使いさんには人徳厚き御方が居られたもので昼間の校長先生よりも人望熱き夜の校長先生として立派に君臨為され色々人生の薫陶を授けられたものだった。

 

散歩がてらに連日、小学校の敷地に沿った道路を過ぎる、人影がない日もあるが体育の授業や休み時間に子らが戯れるのをよく見掛けたりもする。

また校務士さんが黙々と運動場で草刈り機を操作されたり側溝に潜り込んでせっせとどぶさらえに精を出されたりする。

 

ことろが或る日のこと好からぬ光景を目にしてしまった、其の日はノズルを操作されるが此れ明らかに除草剤の散布ではないか。

ものものしいゴーグル姿で保護服で身を固め盛んに薬剤を噴霧する、植え込みや小花壇の雑草を狙い撃ちされる。

児童たちの目に曝されるは事はないにしても此ればかりは戴けません。

せめて小学校の敷地内だけは聖域と致すべきではなかろうか。

少しばかり心が霞んだ。

其の二

運動場の周囲には記念植樹された代々の樹木が立ち並ぶ、或る日のこと甲高い声の主の周りに四五年生と思しき子らが一心に耳を傾ける。

耳のわるいわたしには聞き取り辛いが年若き女の先生が声を張り上げて何かしら説明される。

子らも聞き漏らすまいと真剣に耳を傾ける、中々お若いけど遣りての先生のようだ。

わたしに気付いた先生は健康そうな笑みを湛えてわたしに向かい会釈される、子らも一斉に声を揃えて「こんにちは」と反応する。

実に気持ち好い爽やかだ、この先生は大したクラス経営の主ではないか。

先生は足早に次の樹木の下へ移動すれば子らも敏捷に体を動かす様は模範授業を参観したような気持ちになった。

此れ願ってもない出来事だった。