老いのひとこと

初秋二題

其の一

まるで台風一過の様にスカッと晴れ渡る。

只の一銭の稼ぎにならん我が生業に打ち興ず、時折ゲートボールの玉を打つ乾いた音を遠くに捉える以外は、此処額谷の里は静寂そのものだ。

珍しく、一匹のモンキイ蝶が舞う。

其の時、外れの木立からミンミン蝉が声高らかに鳴り響く、透明な羽根の下には激しく鼓動する胸郭膜が裂けそうではないか。

あたかも絶滅したかのように成りを潜めたミンミン蝉が鳴く。

第一此処最近はニイニイ蝉が鳴かないアブラ蝉とて無きに等しい、そんな時地球の生態系が安泰であることを告げて呉れた。

間を置かず数分後に今度がツクツクホウシが鳴く、しおらしく遠慮がちに聞こえる。

まるで随唱ではないか、ミンミンとツクツクは恰も夫婦の間柄のようではないか。

惜しむらくは集音マイクがなかった、とても残念だ。

 

其の二

後継者が居ないのなら居ないなりに奇麗さっぱり手を退けばよいものを何を思ったものか引退宣言を自ら反古と致し、この秋大根を最後と又々耕運機を引っぱり出して何はともあれ苦土石灰の始末をす、秋の日は釣瓶落とし視界ゼロのなか耕運機と格闘す。

突然闇の中に家内の甲高い声でハッと我に返った。