老いぼれへぼ教師の回想記《8》

なんともヤクチャモナイ無茶苦茶なことを為したことか。
どちらかといえば昔から決して蛮カラ風ではない。至って繊細で気の小さい成り立ちなのですが、当時は何ともヤクチャモナイ無茶苦茶なのとをしてしまったことか穴があれば入りたい。シマベビさんのように・・・
諸君、すみません。許したまえ。

以前どこかのお店でウナギの骨の唐揚げを賞味したこ時にも思い出していた。昨年の此の時期、上野先生と分校跡地を訪れし折にも、なぜかしら此の親愛なるシマベビ君に出会うとかが皆無であった。
まさか自然環境の異変が此の地にまで及んでいるとは考えたくはないが、もしそうだとすれば大問題だ。

緑に囲まれた大自然、めらめらと若葉が萌えたぎっていた。あたり一面が緑一色で染まっていた。掛け替えの無い大自然の包容力、どうもありがとう。








調理実習

 集落が山々に囲まれる関係で、日照時間が少ない。また、冬期の雪の積量からして、家屋の構造上採光窓は少ない。そこへ以って、山村ゆえに魚を食べる機会が多くはないので、動物性蛋白質やカルシュームの摂取量が制限された。
 このような要因がいくつか重なっていろいろな慢性疾患が避けられないのである。
 赴任の折、養護の二木先生より斯様な予備知識を授けられた。従って、この地域なるが故の致命的欠陥をなんとか克服する手立てはなかろうかと、私なりに考えたりもしていた。
 登校の途中で、巨大な赤まむしが道端に横たわっていたのを、末岡先生はいとも簡単に棒の先でちょいと処理し、またとない強壮剤として自身の体内で処分されていたことを思い出す。
 また、川原の石組みの堤防には夥しい数のシマヘビが遊ぶ。繁殖期を迎えた春先の彼らは、勇猛果敢に鎌首をもたげてわれ等の長靴を目がけて攻撃をしかけてくる。
 そうだ。これだ。これでいこう。この閃きを遂に決行に及んだ。
 若しも、これが今日的教育環境に置き換えれば、さぞかし一大騒動に発展したであろうことは想像に難くない。
学校や教委への抗議や苦情が恐らく殺到したことであろう。背筋が寒くなる。

 水曜日の午後の職業科の授業を待った。趣旨を説明し、了解を得るべく吾なりに説得した。
 概ね、女子の方が消極的反応を示したが、敢えて強固な反対はなかった。
 女の子たちは素直で、純真な真綿のようなぬくもりを宿す心の持ち主ばかりだった。
 早速、男子は捕獲のため四方へ散っていった。その間、女子は七輪に火を熾し、蒲焼に供するタレ汁つくりに工夫を凝らした。小一時間もすると、収獲した獲物を携えて意気揚々と帰還する。
 中には、腕っ節ほどの太さで、長さが一間を越す大蛇のような青大将には、さすがびびってしまった。
 ヤマカガシも混じっていて、これにも閉口した。主にシマヘビの首を折り、手際よく引き裂いて皮を剥いだ。
 内臓の臓物を内川の流水で洗い流し、骨ごとぶった切り、金網で火に炙った.焦がさぬように遠火で時間をかけた。香ばしい匂いが、校庭にただよった。
 タレをつけて蒲焼のように仕上げた。誰しも、半信半疑の思いで恐る恐る口にした。少々、歯ごたえがあったが淡白で粋な味がして美味しかった。
 みんな懸命に笑顔を作って食べたが、やはりどことなく恥ずかしいような後ろめたいようななんとも複雑な表情で、少々こわばっていたような気がしてならない。
当時の分校の諸君たちは、皆ことごとく純真無垢な善い子ばかりであった。

よーく観察してみたら、満身の笑みをたたえていたのは、やはり、私一人だったのかも知れないのです。                 つづく