うらなりの記《31》

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食べ残し、残飯量世界一。飽食の時代を迎えた。
戦時中のあの頃とは隔世の感がする。
わたしは、あの時のことを忘れることはない。終生、忘れられない。
それ故に、同じ思いで苦しみ喘ぐ夥しい人たちへの救援の手を差し伸べねばならないのです。
処がどうしたことか、本気で真剣に取り組んではいない。
全然ダメなやつだと呆れている。
ユニセフを大いに活用しなくてならないのです。
わかっているのです。
 
 
その三  父高橋忠勝(10)
 
大瀬家のヘッツイから吹き出る飯釜の蒸気に酔い痴れムラムラとした誘惑心に駆られていた。 
何も周りのものが目に入らなくなった。医王山小学校の手狭な教室の最後尾に机があてがわれ学習を強いられたが、中身には無頓着で皆目覚えてはいない。
父は軍調達の粗悪なるとろろ昆布の巨大な塊を何処からか仕入れてきた。
これぞ大した代物で湿気で圧縮したまるで岩石の如し、煮ても焼けども食えたものではない。無機質な味の昆布もどきを主食代わりに、われらの生命をつないだ。
忘れもしない精気の抜けたボスボスの種芋の残骸で作られた雑炊の中、米粒を選り分けながら捜しながら母の目に感謝しながら母子四人の楽しかるべき夕餉は終わるのである。
母の心中を思うと不憫でならない。白米を炊く竈の脇でわれら三人のためにいか程に腐心したことか。
さぞかし、断腸の思いで人知れず悲嘆の涙にくれたであろう。