うらなりの記《102》

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⑧ 如何ほどの時の経過があったか知らない。
無言のままであった。
私は愛おしい母の手や足をさすった。
やがて、母は私に声を掛けた。
からだの向きを変えてほしいと願い出た。
四月に出立の折り、見送りの言葉を戴いた時以来の久し振りの母の肉声だった。
紛れもない此の時の母子のぎこちない会話が今生の暇乞いの言葉となり最期の見納めになろうとはこれまた余りにも無情過ぎはしまいか。