老いぼれ教師の回想記《113》

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その六  石垣の 陰に潜みし 将中や
 
習字の授業=その1
 
  厳めしき高三の巨大なる体躯からすれば中学生はさすがに幼子に映った。
春爛漫、桜花乱舞する校庭でのクラス写真の一齣には安らぎに似た長閑な安寧の表情がありありと写っているのである。
 
 この様な平穏なる世界がこの世には決して長くは存しないと同じように、私を取り巻くそれも瞬くうちに儚く散り初め消え失せていくのである。  あたかも正に桜の花のようにである。
それは三人のわが子が同じ年頃になっていたのだということなのだが・・・・・・
 
 国語の大野重幸先生から持ち時間の関係で是が非とも習字を持ってほしいと嘆願された。
字が上手いからではなく、あくまでも持ち時間の関係からである。
確か大野先生は教頭に抜擢された年であった。
断る正当な理由もなく承諾せざるを得なかった。
 
 なにせ新しき領域に手を染めること自体は誰しも新鮮な刺激に酔いしれるものだ。
池田町に住んだ小学生の頃茨木町にあった中浜書道塾で手ほどきを受けたことがある。 また、高一の担任が氷田清風氏で毛筆を手に取ったことはあった。しかし、格別な感慨もなくやり過ごしていた。