老いぼれの居合稽古《11》

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その11
台風が過ぎ去るごとに秋が深まる。
暑さに喘いだのもついさっきのように思えるのだが季節の移ろいは何とはやい事か。
もうマフラーや手袋が恋しい時節を迎えてしまった。
 
 
残暑厳しき先月の土曜日、六水会最後のの定例日ゆえ万難を排して道場へ赴く。
夕凪の頃合を見計らっての道場入りであった。
階上の籠もり切った熱気を追い払うべく窓と云う窓を全開にする。
処が空気が微動だにしない、まったくの無風状態で凪も手伝い気合いが萎える。
正座し刀禮姿勢に入っただけで玉の汗が滴り落ちる。
汗ばむ脚が袴に纏わりつき、晒木綿の生地も用を足さない。
此の日は稽古を断念するに足る口実が我が胸裏に幾つも立ちはだかってきた。
それにしてもおのれを欺きおのれに敗北した挫折感にまざまざと屈服する無様さだけはやはり避けねばなるまい。
怠惰な心とそれを打ち消さんとする強靭な心が葛藤する。
おのれの非心に陥落し去るよりも此の非心をばおのれの愛刀源祐光にて両断致さねばおのれの立つ瀬がないではないか。
斯くして汗まみれでおのれとの格闘を演ずるを決す。
敵はおのれにあり。
おのれとの戦いは小一時間つづいた。
凪いだまま、西日が爛々と差し込み照り輝いていた。