老いのひとこと

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主人公の国分次郎が自死と云う意外な結末でこの小説は終わる。
 三島由紀夫さんは小説「剣」の中で国分次郎と云う主人公を生み出された。
 その国分次郎は三島由紀夫の分身であったような気がしてならない。
 国分次郎は燃えさかる太陽を肉眼で凝視し目をくらくらさせながらも太陽の本質を捉えたのだ書いてある。
 太陽は正義であって、主人公国分次郎はまさに太陽の申し子として常に如何なる場面にても強く正しく生き抜く姿が全編に漲っているのです。
 頑なまでに正直でしかも純真で一点の曇りもない純粋な生き様は俗人たちには眩すぎる存在だった。
 取り分け、世渡り上手の賀川には国分の存在が目障りだった。
 唯一、国分を心底より信奉したのが新入部員の壬生だった。
 壬生は国分を信頼し尊敬もし頭から心酔していた。
 
 部長である国分は部員に遊泳禁止を厳しく伝達していたにも拘わらず、国分不在の折に賀川の煽動に乗って部員たちは海に入ってしまった。
 部長命令が無視され反故にされた国分は茫然自失する他はなかった。
 賀川は自分の非を認め自宅謹慎を受け入れ合宿を去った。
 国分は唯一信頼を置く壬生にお前も海に入ったのかと静かに問い質した。
 壬生はしばしの沈黙を置いて、『はい』と答えてしまった。
 壬生はその時、自分の躊躇いと葛藤から決断に至る経緯を国分に向かい正直に語っていればあの最悪のどんでん返しには至らなかったはずなのです。
 部長である国分次郎は、此の不祥事の全責任は自分にあると明言した。
 賀川はともかく全部員がとりわけ事もあろうに壬生にまで裏切られた国分次郎は自分の純粋な生き様にも裏切られたと判断し自分自身を否定し去り更には破壊し消滅させる以外道がないと判断してしまった。
 というよりも、国分次郎は自分の純粋な生き様を頑なに守り通すことが男の美学と信じて死を選んで逝ってしまった。
 確かに肉体は消え失せてもその信念は魂として永遠にのこるでしょう。
 高邁すぎる三島文学については何も理解し切れないこんなわたしにも本当の男の生き様が少しだけ分かったような気がしたのです。