老いのひとこと

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名月や
  ああ名月や
      名月や
誰が詠んだ作かは知らないがちまたではよく聞く名句なのです。
わたしは見栄えしない凡なお皿しか作り得ない。
余りにも単調過ぎるので一句詠もうかと想うがなかなか出てくるものではない。
仕様がないので芭蕉にあやかり此の“名月や・・・”の句を焼鳥屋さんの竹串を借りて彫り込んだのです。
確か「鉄赤」を流し込み拭き取ってから「白萩」を掛けたはず。
未だ釉薬の知識無きに等しく何を用いたか記憶すら曖昧で拭き取りすら上手く出来てはいないではありませんか。
このようなみすぼらしい物を石川県立美術館のいくら広坂別館であったにしろ烏滸がましくて出品できようはずがないのです。
こんなわたしにも知的羞恥心は人並みに宿して居るのです。
いくら何でも厚かましくも図々しい挙動は出来っこありません。
男が廃るし人間も廃ってしまう。
 
不憫なる此の小皿は投げ捨てて粉々にしようと一度は思ったのだが紛れもなく是わが分身、惨めな小物ではあるが何か活かす手立てはなかろうかとわたしと分身は膝を交えて相談し壁掛け皿に致すことに決めたのです。
見事に活き返ったではないか。
如何に取り柄なき存在であれ使いよう次第では生まれ変わることを知ったのです。
「県美」の画廊ではないが拙宅の玄関廊に慎ましやかに飾られて媚びるでもなく安堵の色濃く満足気にしているではありませんか。