退職の折りに美川刺繍店に依頼し我が家の家紋を仕立てて貰い二人の弟たちに贈ったことを覚えている。
吹けば飛ぶような足軽分際でしかなかったのだが往時の位牌だけは代々受け継いだ。
高祖父金之丞から曽祖父政之亟へ、そして祖父勝太郎から父忠勝へと引き継いだその位牌には家紋が記されている。
大割太陰光琳鬼蔦と区分されるのだという。
通称鬼蔦の家紋になる。
不肖の息子が三人いるのだが彼らにもそれを宛がうことを此の際決意したのです。
原版の写真の上にトレース用紙を置き輪郭を鉛筆でなぞって型紙を作りそれを5ミリのタタラに乗せて縁取りをする。
それを予め作って置いた7ミリの大判タタラに重ね不要の部分を取り除いて行けば易とも簡単に出来上がることになる。
ところが意外と手の込んだ難儀な作業で途中でアップアップ仕掛ったのだが何とか意地を通した。
遺憾ながら此のわたしには後にも先にも彼らに分与いたす何物をも持ち合わせてはいないのです。
せめてもの心尽くしの品としてオヤジ手製の陶板家紋を貰い受けてほしいのだ。
こんな物しか跡に残せない不甲斐なさを赦し給えとお前たちに今告げている次第なのです。