老いの回想記≪137≫

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その八  ブーメラン 返る内川 春いずこ


 


 


竹に学ぶ


 


雑念を払う安易な策として私は校舎の窓からよく黙然と竹藪に目をやる。


医王の雄姿を背景に竹林がいやでも視界に入った。


紛れもない孟宗竹に違いはない。


冬の竹はどことなく項垂れ生気なくくすんだ色にみえる。


もの思いに沈み込んだ重々しさに氷雨が降り注いだりすると私までがどうしようもなく寂しい気持ちになる。


目にする光景に重なり合って今あるおのれの侘しげな姿がより感傷的場面の渦の中へに引きずり込まれて行ってしまう。 


やがて、追い討ちをかけるように山々の寒気が音もなく忍び寄り山里にも空からの白き来訪者が舞い降りる。


白き花弁は盛んに何かを語りかけているようにも伺えるが竹は応えようとはしない。


竹は無言のようだ。


竹は寡黙なのだ。


鉛色の空一面から無数の白き冷たき花びらが際限なく湧き出るように舞い落ちる。


音もなく深々と、忙しなく。


冬の永き長い夜中じゅう降り続いた。


それでも大自然の試練だと心得て、竹は不条理なる此の辛苦に耐え抜いている。


背中の深雪を振り払うそぶりも見せずにじっと耐えている。 


片意地を張って強かなる反発心で、その難局に雄雄しく立ち向かっている。


竹は持ち前の柔軟な粘り腰で難敵を見事に萎やし動揺の色を微塵たりとも表に現わそうとはしないではないか。


夜は森々と更ける。


それどころか、降り積もった湿雪の重みで体は折れ曲がり今にも我慢の限界と思しき地表にまで接しようとするが、それでも奥歯をしかと噛み締めて耐え忍んでいる。


そして黎明の時来たりて、乾坤一擲を賭する気迫で阿吽の呼吸すれば、音を立てて重圧を振り払い自力で復元してゆくではないか。


なんと立派な姿ではないか。


素晴らしいではないか。


竹にあやかりたい、竹にあやからねばならない。


また、陽は確かに昇った。


私は、此処内川の此の竹に学んだ。


学ばせて貰った。


私のしがない人生の支柱たる処世訓は此の竹から戴いた。


感謝したい。