老いのひとこと

大下洋子のワイドスクランブルを見ていたら外出のコースを偶には違えてみるのもボケ防止策の一つだよと教わった。

本当に久しぶりに額四峠越えを思い付いた。

もう彼此半年近くになるかも知れないペタルを踏む。

第2の難所七瀬会館前の登りに脚力極限に達するが辛うじて乗り切る。

山環に出て直ぐに信号を左折し鶴寿園からふれあい体育館ゲート前が第3の難所になるが何んとか歯を喰い絞って耐え切る。

 

3年ぶりの体育館を横目に額谷の大自然の真っ只中に踏み入る。

グランドには球児たちが球を追う姿あれどもあの江川さんの張りのある声はなかった、寂しい限りだ。

りんご園には大勢の有志が集って袋掛け作業に興ずる、目が和む。

そして最後の難関「額四峠」に差し掛かる。

確かにしんどいが虚勢を張って嘗ての実績を信じて踏んで踏んで踏み捲った。

登ったではないか自信が沸々と湧きいずるではないか。

これぞ達成感・成就感だ、久しぶりに其の醍醐味に在り付けたぞ。

四十万から鉄道沿線を行けば小学校のグランドでも球児たちが夏の猛練習に勤しむが何かしら不自然さを感じる。

パントマイムの如く一切声がない、彼らに聞こえないように精いっぱい大声で「声を出せっ」と喝を入れてみたが直ぐにコロナの為せる業に気付いた。

対面から近付く車のオッサンが鳴れ慣れしい笑顔を振り撒く。

よく見れば息子ではないか。

我が息子も今やオッサンになってしまったか、「気付けまっし」との忠告が背後から飛んだ。

 

 

 

 

老いのひとこと

              無断掲載

気滅入りし折には活力を戴くべく小冊子「佐久間勉艇長の伝記」を紐解く。

如何に時代が軍事色に塗り潰されし背景があったにしろ利他を尊び挺身奉仕に徹した美談は絶賛されて然るべしと言えまいか。

弱冠三十歳にしてあの立ち居振る舞いあの沈着冷静なる判断を下し得たことはまさに驚嘆の極みだ。

絶命の直前までペンを握りしめて遺言をしたため続けた偉大なる人物像には我が胸中わなわなとただ震えるのみ。

気圧高まり酸欠迫り来る中よくぞ200行もの遺文を推敲し得たものだ。

 

老輩は此れに肖らなけばならない。

此れを励みに拙文を綴り続けなければならない。

今迄の愚行の続行を決意させていただいた。

感謝したい。

 

更に加えて佐久間勉艇長は実母と愛妻を失う不運を機にちゃんと身嗜み能く遺言をしたためていたと言う。

此れにも肖らねばならない。

恥ずかしながら此の齢にして漸く其の事に目覚めさせられた次第だ。

師と仰ぐべき優れた人物に違いない。

 

 

老いのひとこと

雨後の竹の子より遥か過激にヤブガラシこと俗名「貧乏葛」が顔を出す。

その都度憎たらしくも引っこ抜くが翌日には又してもお出ましだ。

当分イタチごっこが強いられる。

そんな時同じツル性植物だが少し毛色が異なるヤツを見付ける。

早速検索すれば何んと野葡萄ではないか。

しめしめ此れ幸いに此奴を愛玩しても面白かろうと好きアイデアに展開させた。

いずれ例のヘクソカズラも仲間入りし彩りを添えてくれるでしょう。

秋には色とりどりのぶどう科植物の実が此の殺伐としたフェンスに登場いたすことだろう。

その為にも此の憎むべきヤブガラシだけは退治いたさねばならない。

 

 

 

老いのひとこと

月に一度の歯のお清掃day、歯間ブラシの手の及ばぬ歯垢を歯科衛生士から入念に除去してもらう。

取り分け差し歯の部分は水圧洗浄機で徹底を期す。

この様な手の込んだ歯のクリーニングを老年期を迎える以前から常態化致すべきであったといくら悔やんで見ても埒が明かないのだが手遅れであったことは間違いない。

入れ歯も差し歯も要らない健常時を維持できた思えば確かに後悔先に立たずと云えましょう。

帰り際に確認のため保有本数を数えて貰えば19本だと言う。

此れは些かショックだ、戴けない。

3本足りない、22本ある筈だと駄々を捏ねるがダメだった。

「8020」への淡い期待感が堰を切って崩れ落ちる。

 

横から先生はお歳からすれば19本もあれば万々歳ですよとなだめすかして下さったがそれでも納得がいかなかった。

これにて「かなざわハッピー8020賞」への応募資格が永遠に消え失せた。

 

とても寂しいが仕方がない、次回の予約日を8月17日に決めて来た。

 

 

老いのひとこと

農作業雑記

其の一

爛熟廃棄分三つ、ひび割れ雨水浸透分多数、ひび割れ寸前のものこれまた多数。

管理が下手くその上不十分だ、たった三株しかないトマトたちへ雨除けビニールを張るわけにもゆくまい。

 

其の二

かぼちゃが結実するが育つまえに消えてしまう。

ウズラの卵ほどの大きさのまま育っては呉れない残念だ。

受粉に失敗したのだろうとその都度雄花を摘んで振りかざしても見るがダメだ。

人工授粉も失敗したのだろう。

 

其の三

インゲンが漸く発芽しシメシメと喜びを噛みしめた時端っこに異質な植物が芽を出し育ちゆく。

よくよく見れば此れはどうもゴーヤのようではないか。

不可思議な現象だ、しばし経過を観察しよう。

 

 

 

老いのひとこと



             無断掲載

襲撃をほのめかす内容の手記が新聞に掲載された。

若しも仮にわたし自身が彼と全く同じ境遇下に置かれたとすれば其の手段は兎も角として恐らくは決行に及んだかも知れない。

此の手記からは追い詰められ行き場を失った人間の断末魔の形相がまざまざと見て取れる。

此れは決して遠い別世界の出来事ではない、そんじょ其処らに転がっている。

ひろゆき命名の「無敵の人」は其処らの籔の蔭にうようよ潜み居るではないか。

そんな無茶苦茶な不条理な娑婆を醸し出し容認し見て見ぬ振りをして、また時と場合によっては甘い汁を吸う温床の場として囲って来たのは一体誰なのだ、其の黒幕は一体何モノなのだ。

紛れもなく諸々の為政者たちであり、取り分けその要人が其の片棒を担いだのは明々白々たる眞實ではなかろうか。

 

「無敵の人」はおのれの命と引き換えに其の人物に鉄槌を振り下ろした。

 

その彼の行動は当然非難を浴びメデアから民主主義の敵だと糾弾されても其れは仕方がない。

しかし、そんな事だけで済むはずがない。

むしろ彼の残した此の手記に共鳴し同調する世の底辺に犇めく者たちには格好の模範例として拡大連鎖して行きはしまいか。

 

そういう「無敵の人」たちの心情に喰い込み一般人共々共有し合える抜本的世直し策を先鋭なる智慧人たちは叡智を出し合い逸早く集大成いたさねばならない。

 

国葬なんてとんでもない今は考えられない。

 

此れを機に本当の嘘偽りのない本物の民主主義とは何たるかを国民の前に曝け出してから然るべき時に国葬を論ずればよい。

遅くはない。

待つしかない。

そう在って欲しいと心待ちするだけだ。

 

 

老いのひとこと

四角四面な人間で品行方正さとはほど遠い嫌な奴だ。

根性が捻くれて可愛げ微塵もなく生来根暗な性質だ。

 

此のわたしにそっくりな歪にひん曲がったしかも無安定な八角浅鉢があの時窯から出てきた。

イタズラっぽい表情で「こんにちは」「よろしく」と醜い笑みを湛えて「捨てないで」「壊さないで」「割らないで」と哀願する。

 

「悪かった不遇の身で此の世に生誕させた責任」は此のわたしにこそある。

「許したまえ」と悲しげに頬ずりする。

わたしにしか創り得ない此の世に唯一無二の秀作であり終生座右の器として愛でてゆかねばならないのです。