お寺さんの門前に置かれた焼き物に目がいった。
「イキテイル」と読める。
成る程、生きているか、死んではいない。
歯が浮いたように痛い、しかも入歯までもが浮いたように痛い。
極々軽微なるも一過性脳虚血発作らしき目まいから来る足元のふら付きはやはり気に為り申す。
全て何もかも一切合切を古紙回収屋へ放り出せば事は瞬時に解決しょうが未練がましく執着する。
取るに足らない古い書物に取り囲まれ一々其の嫁ぎ先や所在を確かめようと致す。
心が定まらない、あれやこれや想い悩んでしまう。
次から次へと迫り来る煩悩に追い捲られて一人苦しむ。
寺の門前の「イキテイル」は何かを示唆していましょう。
「生きている」とことはそんなに生易しくはありませんぞと諭して呉れているようだ。
生きること自体が苦しみで在り、況してや老ゆれば更に苦しみが増し、又愛しきものとの別離にも別の苦しみが加わりましょうことを此の置物は此のわたしに語り掛けて呉れているのでありましょう。