2021-09-03 老いのひとこと 畑作上の招かざるお客にスベリヒユという名の雑草がおられる。 地面を這うように見る見るうちに勢力を拡大し風呂敷を広げたようによく育つ。 実は此の植物を見るに付けむかしの苦い体験が重なり 目を逸らしたくなるのも事実なのです。 戦争中のひもじい思いが一気に甦り、そして少しばかり憂いを漂わせる母親の顔が目の前をちらつくのです。 ずっと今まではこの草を見るに付け其の残影を取り払うべくひときわ力を込めて取り除いたものだ。 それがどうした事かむかしの思い出が懐かしく愛おしくわたしの胸に迫り来て此の植物を手厚く採取し持ち帰っていたではないか。 心境の変化を来たしたのも確かに齢の所為でありましょう。 裸電球の下で母親はわが子の夕餉にとなけなしの食材を雑炊に仕立て呉れた。 軍需用の削り昆布の塊りを溶かし芋と芋ツルに此のスベリヒユを加え其処に数えるほどの米粒が沈んでいた記憶をお袋さん共々鮮明に思い返す。 鍋で炒ったイナゴが御馳走だった。 どうしたことか此のイナゴは日本の田園から駆逐されて久しい。 此れ又どうしたことか今以って依然として此のスベリヒユはむかしの勢力を保ったままだから不思議なのです。 粘り気ある口ざわりと歯ごたえよく天然の風味溢れる絶好の夏野菜ではないか。 ポン酢とよく合うようだ。