老いのひとこと(56)

56)

妙典寺の境内には津田近三が建てた二つの墓石が並び居る。

その一つが巌のような半山の墓でありもう一つが近三自身が建てたおのれの墓石そのものになる。

近三にとっては妻にも外喜雄・饒の愛児たちからも先立たれ衷心より弔意を籠めた此の墓を建てたのでありましょう。

実は本日のこと、舟田氏同行のもと今一度懇ろに物色いたせば歴史を実証するに足る貴重なる刻字を発見するに至った。

何んと偶然にも「饒」の一文字が見事に浮かび上がったのだ。

間違いなく近三はおのれの次男「饒」を此の墓に葬った隠せぬ証しを遂に見付けた。

得難い大収穫ではないか。

驚きは其処までで止まらなかった。

舟田氏は墓石の一角の亀裂箇所を強引に剥離させ中を覗けば在るではないか骨壺三体の発見に至る。

恐らくは津田本家筋のみならず分家分も散見するはず為れど此ればかりは如何ともし難し。

DNA鑑定も意味なし第一火葬に伏した遺骨のDNAは消滅し科学的にみても何ら意味を為さないというではないか。

 

 

見れば見るほど虚しさだけがわが胸に込み上げる。