老いのひとこと(57)

火葬に伏した人骨は骨の細胞にあるDNAをも焼失させるので遺伝子解析は不可能だというのだが、ならば一つ骨壺の時代鑑定が面白かろうと気が付いた。

何せ成瀬家から津田家へ養子入りした近三は極めて世話好きではばしい性格が想像に難くない。

妙典寺寺内の津田一幽家の葬祭に関わる庶事雑事を一手に引き受けてこまめに働いた。

つまり近三は分家の世話を焼いた実証物件が或るいはひょいとして大発見に至るかも知れない。

そんなことを想定するも冷静に一考いたせば意味無き事にも思えて来る。

津田家のルーツの枝葉末節を弄くり回しても我が母は決して喜ぶこともあるまい。

 

 

いずれは訪れるであろう此の妙典寺の墓仕舞いに際しては近三らの分骨を紛れもなく我が高橋家の墓中に移し替えることを今此処に確と誓うことを約す。