老いのひとこと

皐月の薫風を求めて外へ出る。

お目当ては石踏み修行で在り路傍の草花を愛でることであり見知らぬ人と目配せし会話が成立すれば此れほどの喜びはない。

今日も参らば歩道のない路側帯を一メートルばかり食み出して行けば対向車のいない広い道路で後ろから来た車両が注意を促す程度とは懸け離れた悪意とも取れる消魂しい警笛を吹き流して疾走してゆく。

非常識なドライバーも居るものだと些か憤慨もしたが気を取り戻して歩みを執れば5分も経たぬうちに再度無頼漢のような車に遭遇し流石に頭に血が昇った。

此の無礼者メ、此れは赦せんと仕込み杖を抜き払って一刀両断に斬り伏せようと身構えたが狂気の沙汰だと断念した。

充分な歩行すら覚束ない高齢者に何んと冷酷なる金持ち優者が居るものだと現代社会を憎んだ、いやソ奴を不憫に思い悲しんだ。

 

 

帰り際に見知らぬ婦人に声を掛けられる。

額新保の辺りに学校が在るかと尋ねられる、学校は在ろうかなと首を傾げればいや学校ではないバス停だという。

近くにターミナルが在ることは知っていたが実は近くに住むものではないので此の散髪屋さん聞いてくださいと指をさしたが其の御方は立ち去って行かれてしまった。

でも此の一件で先ほどの重い嫌な思いが帳消しになった。