老いのひとこと

ほんの偶にと云うより只の一度きりだがよそ様からお声を戴いたことがある。

大概の皆さんは変な老人を気味悪そうに横目で睨んで通り過ぎるだけだ。

取り分け園児を引率する保母さんたちも敬遠気味に避けて行くのは実に寂しい。

今日は珍しくも中高年のお方から痛くは在りませんかと呼び掛けられた。

何か足しに成る事でもありますかと語り掛ける。

何も良いことはないのだがただ石踏みの為に毎日此処に参りますと応える。

どうぞ貴男も靴下脱いで、どうぞどうぞと奨めたが両手を振って遠慮された。

其の方は語る、天涯孤独の身であると云う、妻も子も兄弟も居ないと云う。

其の割には陰影がない前向きに何事かを見据えて人懐っこさを滲ませる。

やがて、我が道を行かんと立ち去られる。

互いに「御達者で」と云い交わした、でも気持ちが好かった。

 

もうひとつ面白い光景に出くわす。

老女と孫のような大男が二人並んで乗用車に歩み寄り何んといとも小柄なる齢老いし女性が運転席に乗り込む、何か捜し物でもしているのかと思いきや齢若き屈強そうな男性の方が後部座席に乗り込んだではないか。

わたしは少し離れた片隅で暫し固唾を呑んで窺がえばやがてエンジンが始動し車は走り出して行ってしまった。 

わたしは仰天し同時に笑いが込み上げる。

久し振りに腹を抱えて大笑いした、誰も居なかったので本当に大笑いした。