老いぼれの愛犬日記《16》

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⑯ 9月3日月曜夕刻高安軒へ赴きりりの遺骨をおもむろに納骨壺に収める。
 不注意にも原形をとどめる頭蓋骨を打ち砕いてしまった。
 生前のりりの頭部に間違いがない。苦しむさ中擦りつづけたりりのあの小さな可愛い頭に違いない。
 あの憎むべき腫瘍の患部が増殖した箇所でもある。
 りりには二つの喉仏があった。
 ともどもみんな家に帰った。
 もうどこにも行きやしませんよ。
 安らけし。
 おやじとおふくろの命日にもわたしは焼香すら為した覚えがない。
 年に一度旧盆に際し、墓前に献花を施すだけの不届き者に過ぎなかった。
 ところが、この犬の死によって極めつけのふしだら者に仏心を授けてもらったことになる。
 日々線香を絶やさぬように努めている。   真実、衷心より生命体の霊を悼む気にさせてもらったことになる。