うらなりの記《111》

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⑰今、棺の中の母の死に顔を目の当たりにして、あのとき母が足繁く私を見舞ってくれたそのときの母の顔が髣髴として思い出され衝動的に感涙を流してしまったのである。
 
母は誰に憚ることもなく私を見舞った。
でも私の目には母はやはり隠れるように目立たない風情で病室に入ってくるように見えて仕方がなかった。
それ故にこそすみません、弱い子ですみませんでしたと言葉にこそ出すことはなかったがいつもそのように思い続けていた。
母がどんな言葉で私に寄り添い、私を慰め励ましてくれたかはまったく覚えてはいない。