身欠きニシンの数は三十三本あった。
ちょうど手頃な本数である。
桶に蓋がついて居れば樽というらしい。
柾目のものは見栄えは良いが値段が高く
水分の浸透が大きいらしい。
その点板目で良いのだが家にある古いのは長年使わないのではっしゃいで骨組みがぐらつき原形を留めていなかった。
残念ながら発酵作用を促がす木製のものは諦めることにした。
プラスチック製で代用すればよい。
教本通り底に塩を蒔き魚体の皮の部分を下にして先ずは十本ほど敷き並べた。
其処へあらかじめボールに米ぬか一升、麹四百グラム、ザラメ四百グラム、味の素百グラム、唐辛子一袋に岩塩適量を掻き混ぜたものを鷲掴みにして振り掛け、二段目三段目と作業を進めた。
童心に立ち返り砂場で無心に遊んでいるような素敵な気分にひたった。
醤油四合ほどに隠し味「いしる」を少々混ぜ合わせさらに其処へ日本酒五合強を加えたものを大胆に降りそそいで身欠きニシンの糠漬け作業は終えた。
器をビニール袋で密封し半年間ねかせて秋口には食卓にのることでしょう。
恐らくは潤沢に発酵作用が繰り返されて格別上等な味に仕上がることでありましょう。
願わくは我が体内のとりわけ脳内の発酵が滞りなきよう此の糠漬け樽の中に是非共あやかりたいものである。