老いのひとこと

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釉薬が熔け落ちて恰もカタツムリの角のようになった自慢の茶碗を持ち合わせます。


 以前の失敗作だがゴミの日に不燃物処理するのもいとも憐れなので此の際見苦しく伸びた角の部分を撤去摘出する手術を思い立った。


 手持ちの金鋸で挽いてみるがまったく歯が立たない。


 安物のカナノコでは手に負えない、正直ダイヤモンドカッターが欲しいくらいだ。


 焼物の真似事をやりながら釉薬の何たるかを全く知らないお目出度いヤツなのです。


 調べて見ればその成分は長石、ドロマイド、石灰石カオリン、珪石、酸化銅と多種多様でみな化学式を有する。


 要するに、釉薬たるもの明らかに難解なる化学式で成り立つ化学式そのものなのです。


 大の苦手教科、化学の先生の渋きお顔が目の前に現われてしまったではないか。


 道理で、当初より此のわたしは此の釉薬室を本能的に敬遠気味だった理由がこれではっきりしたのです。


 紅緑色弱で色彩感覚疎く、その上更に難しい化学式が居並ぶカ所なのだから大いに頷けるのです。


 


 此のツララ状の部分は釉薬そのものが凝固しているのでそれは硬いはずだ。


 高硬度抜群なのです。


 時間を懸け根気よくノコギリ挽きを重ねるうちにやがて漸くにしてポキンと患部が外れ落ちたのです。


 此の世に一つしなない愛くるしい逸品が今このようにして誕生したのです。


 なかなかイカス別品ではないか、非常にイカス絶品ではありませんか。


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