富士の裾野にあると或る道場でのちょっとした稽古前の一光景なのだそうです。
師範の先生が訓示の冒頭に口にされた言葉だという。
「お相手を打つことを考える先にまずは自分の姿勢を正しなさい」
さぞかしこの道場の粛粛としてきりりと締まった雰囲気がじかに伝わる。
何処の道場でも裂ぱくの気勢でぶつかり合い互いに先の技を競い合う。
互いに優越感を独り占めしようと切磋琢磨し合う。
そこから剣道の醍醐味が生じましょう。
好いことに決まっている。
しかし、そこでは一方どうしても「どうだ、どんなものだ、参ったか」の気風がおのずと流れ強弱の序列が生ずるはこれまた当然過ぎましょう。
果たして剣道は技前だけの序列よろしいのしょうか。
処が、「お相手を打つ前におのれの剣道観を立証せよ」の此の道場には恐らくは別種の特殊な雰囲気が漂っていることでありましょう。
是が非ともこんな道場をそっと窓越しより見学してみたいものだ、叶うならこんな道場で見取り稽古を為したいものだ。
何時ものことだが稽古の後さきに道場の窓の開閉に勤しむ老剣士がいる。