老いのひとこと

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小作人であるがゆえに文句は言えまい。


ただ、おのれに貸し与えられた小作地を耕し世話をし生えた雑草を取り払うは当然なる仕草であり何ら厭うことはない。


お陰様にて今年は各種旬の夏野菜に囲まれ舌鼓を打つことが叶った。


地主さんには感謝こそすれ文句を言う筋合いはどこにもない。


ところが此の地主さんは根っからの豪放磊落なる性分から実に豪快なる粗放農法に徹せられる。


第一ちまちまと草むしりを施すようなことを極端に嫌われる。


実がなっても収穫を忘れ爛熟したままカラスが来ようがお構いなし。


生い茂る雑草の中にスイカが顔をだし生息しちゃんと育っている。


雑草の勢力に負けじとスイカ自体が奮発し立派に育つのだと特異なる見解の持ち主であられる。


 


その地主さんから依頼が入る。


イカ畑をオクラ畑に作り替えたいので雑草を取り去ってほしいという。


地主の云うことには従うは世の習い文句は言えまい。


雑草とて必死で根を張る、取り分け野生の粟稗の類は地中奥深くに入り込む懸命に鍬を打ち込むしかない。


わずか双畝ばかりだが八十過ぎのか弱き肉体には過分なる重労働、此の苦痛を喜びに転化するには相当の人間修行が伴なうことを厭と云うほど知らされた。


未だに未熟者のわたしには他人の畑の草むしりに喜びを体得する程の人間力は遺憾ながら持ち合わせてはいなかった。


殊勝なる心の持ち主足り得なかった、一介の凡夫にすぎなかった。