老いのひとこと

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あれから38年の年月が流れました。

あの当時12歳の彼女は何故だか知らぬがわたしに逆らうように抗う姿勢を崩さなかった。

頑なに自分のこころの内をわたしに明かそうとはしなかった。

彼女のこころの内に入ろうとすればするほど拒まれつづけた。

為す術なくわたしはわたしの至らなさに悩み苦しんだこともあった。

つくづく我が身の力の限界を知らされつづけた。

そして、あれから38年の歳月が流れた。

彼女らの同期生が一堂に会する機会に其の会を取り仕切る幹事からわたしにもお声が掛った。

其処へは顔を出す資格のないわたしではあったが僭越ながらも列席してしまった。

一献酌み交わしながら旧知を温め合う中に

一人の女性が現れ神妙な面立ちでわたしの前でこうべを垂れる。

見るまでもなく38年むかしのあの時のあの彼女であった。

お久しぶりですと一礼を交わしわたしに手を差し伸べる。

暫しの間、憚ることもなく周囲には異様と思えるほど両者は手を携えたまま佇んだ。

旧知を温め合う内にわたしはありありと彼女の言わんとする彼女の胸中の全てが手に取るようにわたしに伝わる。

あの38年前のわだかまりが握り合う手の中で氷解して行くことを肌で感じ取った。

此処に来た甲斐があった。

何よりも来てよかったと大いに納得した。

 

今や100年の実績を有する大企業を取り仕切る重役さんとして堂々と君臨し実業界に貢献している。