新聞の死亡広告欄を見て唖然とし我が目を疑った。
まさかあの人物が、あの大先輩が早々に大悟あそばされるとは幾ら世の常世の定めとは言え余りに無常すぎはしまいか。
此の大先輩とは県武にてよく剣を交え夜の巷では盃を交し合ったものだ。
天性の面抜き面の妙技は今も忘れはしない。
後へ退くには非ずして体を右へ躱す捌きの抜き面技が心憎いほど絶妙であった。
決して待ちの剣ではなく攻めていながらわたしの竹刀は空を切り先輩の打突はわたしの脳天でいつも炸裂するのでした。
何度試みても敵わなかったわたしには最大の宿敵であった。
先輩であり剣友でもあり然も挑むべきライバルでもあった。
また先輩には何度となく新天地の軍国酒場へ誘い込まれたことを思い出す。
罵声を張り上げて意気を高らかに月月火水木金金と歌い上げたものだ。
其の大先輩がわたしに断りもなくお隠れあそばされた。
此処数年は拝謁いたすには及ばなかったが賀状交換は長らくつづいた。
つい先日には先輩からの賀状が届いたばかりだと云うのに斯くも虚しきことがあって宜しかろうか。
ああ無常。