老いのひとこと

晴れマークがつづくが冷え込み厳しく空気が冷たい。

芳しからざる体調を囲いながらも石踏み公園へ今日も目指す。

額新町の歩道を行けば遥か前方に人影を捉える。

近付くにつれご年配の奥方のようだ、ローラーが付いたショッピングカートを引いていられる。

すれ違いざまにマスク越しの目線が合う、面識はないが何故か気安く語り掛けて来る。

「お元気そうで何より」そして

いきなり「お幾つでしょうか」と尋ねて来る。

初対面で単刀直入に齢を聞かれた、珍しいお方だ。

ややと思ったが応えぬ訳には行くまい、「昭和10年で数えで米壽です」と応ずれば先方さんからは意外なること言葉が返る。

これぞまさに鮮やかなるお面を一本頂戴したことになろう。

口にこそ出さずとも「お見事なり」と叫んだ。

シャッポを脱いだ。

 

其の奥方は何気なくわたしを見上げ「九十四歳」であることを実に歯切れのよい口調で得意然と告げる。

七十代と思いきや遥かなる年上と知って縮み上がって自ずと一歩退いた。

鼻垂れ小僧に見くびられたのだ。

一本取られたも同然で悄気返るしかない。

でも直ぐに正気に戻り相方を褒めちぎった。

どうだと云わんばかりに彼女は矍鑠たる態度で「これからGENNKYで「元気」の買い物だ」と云わんばかりにしっかりした足取りで立ち去って行くではないか。

御見それ致しました。

一本取られました。

参りました。