老いのひとこと

まるで小学生のように「先生お願いします」と手を挙げて質問する。

すると先生は手短に要点だけを教え諭して下る、とても心丈夫に作業が進む。

どんなバカげたことでも気安く問い質せるのが素敵だ。

偶にはこんなことも訊いてみた、先生はミスですかミセスですか、勿論ミスでしょうね。

ハイわたしはミスですよと返って来た、また先生は陶芸が専門でしょうかと尋ねてみたら「わたしは彫刻を遣ってますよ」と来た、ならば木彫はどうでしょうかと問い掛ければ「木彫もやりますよ」と返って来たではないか。

わたしはシメタと思った、「実は始末に負えない丸太を貰って呉れませんか」と単刀直入に切り込んだ。

しばし、沈黙がつづいたがやがて先生から和かい表情で「戴けるものなら頂きますよ」のお声が返る。

見事、貸与の契約が成立したわけだ。

 

今日、先生は彼氏と思しき強力を伴って事もなく上溝桜の十年来の古木を引き取って行かれた。

一抹の寂しさを覚えたが直ぐに晩秋の好天のもとに消え失せたようだ。