老いぼれの犬日記《10》

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                       最期の別れ
 
 
10 りり逝く
 
 この格別の猛暑の中わが愛犬りりは19日間の悪戦苦闘の闘病の末、その甲斐もなく8月31日午前6時15分に一人静かに息を引き取った。
 真横に添い寝しながら、飼い主に死に体を見せることなく逝ってしまった。
 見せることを避けたとしか云いようがない。
 安らかな寝顔であった。
 最期の後始末をお願いします、と訴えているようにも見える。
 とてもお利口で賢い立派な忠犬だった。
 犬なりに周りのみんなに迷惑を掛けたくないという配慮を見せてくれたのに違いない。
 深夜の1時ころ切ない鼻鳴き声で目覚め水を与えたが飲む気配無くガーゼで口を湿らせやがて睡魔に陥る。
 明け方未明の頃いつものようにエアコンを切り窓を開け外気を取り入れ、りりの呼吸と胸の鼓動を確認して再び眠りに陥った。
 そして、家内に肩を揺り起こされるまで気付くことがなかった。
 臨終の席に臨めなかったことは家内共々慚愧に堪えない。
 少なくとも6時15分現在の愛犬リりには微かとはいえまだまだ十分なからだの温もりを認めて確かめ合った。
 そのことを二人で確認し納得した上で息子と孫へその旨通報するに及んだ。
 
 午後6時15分、曹洞宗古刹高安軒にてしめやかに弔っていただいた。
 もう早くも、りりは天国の草原を力いっぱい飛び跳ね回っている。
 奇しくも、その時天掻き曇り慈雨注ぎ灼熱の大地を潤した。
 これは、やはり「りり」のしわざに違いない。
 急に辺りが涼気に包まれた。