「灯台下暗し」という。
高尾山の眼下に住をたまわりながら未だかって一度も城址の桜を目の当たりにした事がなかった。
今日も自転車を漕ぎだしてふと高尾の山に目を遣れば山肌が一面薄紅色に染まっているではないか。
その淡い色合いに魅せられて遂ふらふらと見に行こうとこころが揺らいでしまった。
教育センターに通じる登り坂を自転車を押しながら上ったことはない。
結構きつい、上に行くほど只ならん勾配で前へ出るのがやっとの思いで漸く見晴らしだ登り口に至る。
標高190㍍300段の階段状の登山道が見事に整備されている。
300段が400、500段にも思えた、あの往時に20万もの宗徒たちが槍を携え此の急峻な城壁を攀じ登って「加賀の一向一揆」を成就させたのかと思えばやはり感無量だ。
もちろん、満開の桜の園を満喫できたのは山頂に辿り着いてからであった。
決して、富樫一族の方ではないという。野々市在住のご奇特な有志の方が此の桜の樹々を寄贈為されたのだと聞く。
仰ぎ見て愛でるもよし、此処高尾の桜は
金沢の街並みを背景に見下ろしながら見上げ絶賛できる唯一の桜の名所ではなかろうか。
寒気が居座り天気晴朗、空気が乾いていたので急に肌寒さを感じた。
そしてその帰り道、とんでもない珍客からのご挨拶を頂くことと相成るのです。
裏手からの下り道は孟宗竹の藪を切り開いて造られていた。
その藪を過ぎてから山腹を迂回するように横道へ反れたその時、夕日の逆光線を遮るように得体知れぬ物体が視界に入った。
珍客は珍獣であった。
紛れもなく仔牛ほどのカモシカに違いない。
じいっとたじろぐことなく不動の姿勢でわたしへ視線を注いでいる。
退く気配がない。
わたしの方が恐る恐る間合いを詰めればおもむろに少し移動し何と小用を足し始めたではないか。
それが何と長い事、全く警戒の色を示さずに垂れっ放しではないか。
ただ、至近距離での一枚がない。
其れが至極残念でたまらない。
今日も大自然を相手に存分に会話を楽しむことが出来ました。
子どもの頃に返ったように「ヤッホー」「ブラボー」と何度も何度も有らん限りの大声を連呼しながら山を下りました。