老いぼれの夕雲考《122》

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夕雲流剣術書        小出切一雲 誌(48)


 


人心を疎かにした者たちに対し一雲は実に辛辣なる目で人間観察をしている。


其処に何かが隠されているのだろうか。


 


 


人心を知らぬ人たちは畜生にも劣る


 


【然る所に、人は人にて形は畜生にはあらねども、人心を知らぬ人は、水を火に使ひ木を金に用ひて見んとする如くに、萬事の道理逆か横かに取扱ひ、當然自ら背きて思ふ儘にならぬ時は、己が心の扱の物の理に背く故、物の自由に成らぬよと立歸り悔る心はなくて、彌ヽ我を強く張り、邪曲の思案工夫に性根をつからかして、果は天を怨み人を尤む、不斷憤りを懐く故に、うかぬつらがまえに成て人柄をそこね、其上に譽を求め毀を嫌らひ利を貪り衣食住の三に分外の願を生じ、天命を不ㇾ知、才覺智惠にて調ふる事かと心得て、東西に走り南北に廻りて、朝より夕に至る迄隙もなく苦み、年月を送て終に人道天理當然の安閑と云ふ事を知らず、暗昏盲迷として、臨終に至れども自己より悔み恥る心もなく、一息截斷の涯り迄も如ㇾ此なれば、一生畜生を行として畜生の儘にて死する也、】


 


口語訳


であるにもかからわず、人は人であって姿かたちは決して畜生ではないのだけど、人心を知らぬ人は水を火に使い、木を金に用いて見ようとするのです。


彼の人たちは、あらゆる全ての道理を逆にしてか横向きにして取り扱い、当たり前のことに逆らって思うようにならないようにしているのです。


自身の心自体が、ものの道理に背いているので意のままにならないことぐらいは分かり切っているのにもかからわず、素直に立ち返って反省することすら知らない人たちということになるのです。


それどころか、愈々以って我を強く張り、よこしまな思案や工夫に明け暮れして、もはや性根を尽き果たし終いにはとうとう天を怨み人を責めなじる有様なのである。


日頃より、憤懣やる方ない陰鬱なる顔つきで人としての品格を完璧に失墜してしまっているのです。


にもかからわず、彼の人たちは事もあろうに誉れ高き名声を求め、非難誹謗されることを嫌い、私欲を貪り、衣食住には身分不相応なる欲望をあらわにする始末なのであります。


とにかく、天の命令とか天罰ということを知らず、何事にも自身の才覚や智慧によって物事が達成できると思って、東西南北に走り廻って、終日暇なく苦しみながら年月を送り、終いには人道天理に従うことによって齎されるであろう心の安らぎを知ることもなく、暗昏濛溟(盲迷)のまま臨終のときを迎えざると得ないのであります。


とにかく、自分から後悔することも恥じ入る心も持ち得ないことになってしまったのです。


息を引き取る間際まで、此の有様ならば、当然なこととしてその一生は畜生を通し続け、畜生のまま死んで行くのに等しいのであります。