唯一、校名を記す標柱が旧国道わきに悄然として立っていた。
あの白亜の殿堂は忽然と消え失せ荒れ果てた地表がむき出しのままではないか。
あなたたちには巌のように恰も厳父のように立ちはだかるあの学び舎が一切合財何もかも消え失せたのはありませんか。
時代の波という時流に押し流されてしまったのですか。
余りにも儚く虚しい。
「夏草や 兵どもの 夢のあと」
此の小高き原野に立てば芭蕉の句がまざまざと甦る。
非情です、余りにも無情です。
あなたたちの落とした涙も此の砂上に消え失せ跡形もないではないか。
此処にも311に匹敵するような巨大なる景気の波が何もかも根こそぎ奪い去っていった。
でも見よ!
あなたたちの心中を象徴するかのごとく「明朗」・「誠実」・「品位」の校訓を刻んだ巨岩の石碑は怒濤の波にも屈することなく執念深く巌のように厳然とあなたたちの嘗ての此の校地に喰らいついたままではありませんか。
しかし、それを見るにつれ返って涙を誘うばかりなのです。
沈みゆく落日の夕日に向かい手の平を合わすしかなかった。