わたしにとっては額四峠は出会いの場でもある。
四季折々の草花だけではなく珍獣カモシカにも出会った。
まん丸い大きな落石にも又陶土になる粘土まで採掘した。
雨が降らぬ限り来る日も来る日も性懲りもなくわたしは自転車を漕ぐ。
精根込めて暫しの有酸素運動で体力と精神力の限界に挑む。
追い風の日もあれば物凄い向かい風も吹く。
その時は踏ん張るごとに物凄い形相なる。
恐い顔した自分の形相は見えないがいつもこれが人生だへこたれるなとおのれに言い聞かせる。
その内に何もかもが素っ飛んで音もない無の境地に陥るのです。
或る日のこと無心でペタルを踏み込んだとき目の前に得たい知れぬ物体がわたくしに飛び込んだ。
わたくしは物凄い形相のまま素っ頓狂な大声を発してしまった。
自分の大声に自分が驚く始末だ。
その瞬間ウオーキングを為される中高年の貴婦人の御方が余程びっくりなされたのかこれまた物凄い形相で立ち竦んだまま声にならぬ声を発せられたではないか。
わたしは咄嗟に御免なさい失礼しましたと謝った。
通り過ぎてからわたしは何故かしら吹き出していた。
その奥方の演技ではない真実味帯びた真に迫るリアリテイな表情を思い出し笑いが込み上げ止まらないのである。
でも何か少しおかしい、此のわたしは笑いから遠ざかり笑いの世界から閉ざされた中にいたのでしょう。