津軽海峡を渡る③

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津軽海峡を渡る③


 


/18水曜、ビジネスホテルらしく朝食の準備は心憎いほど行き届く。


好みの品々で至れり尽くせり、その心尽くしには早朝初っ端より幸先よし。


 


四年前に味わったあの無類の感動を今一度呼び戻そうと先ずは大川小学校と南三陸町防災庁舎を目指す。


ところが一見すればやはり歳月の経過に伴う人的風化は否めない。


侵入者を拒むように無数の規制線が冷酷にも幾重にも取り巻く現実は復興の道半ばの感をいやが上にも募らせる。


 


しかしもう一度訪れる機会はなかろう、今生の別れを惜しんで現地を離れて間もなくわたしはわたしの腕時計がないことに気付いた。


 


大川小学校の慰霊塔に置いてきたことにしよう。


叔母からの形見分けの金時計ではあるが日程上引き返す余裕はどこにもない。


息子はホテルへ照会するが駄目、念のため車を止めて座席周辺を調べれば何とドアの隙間から出て来たではないか。


此れまさに天佑神助の幸運と云えよう。


此の旅は朝めし同様幸先よし、付いている、皆喜んでくれた。


 


青函フェリに乗船するには1時40分までに函館埠頭へ急がねばらぬ、乗船手続きが待っている。


本州北端の此処青森は各地の酷暑をあざ笑うかのように冷ややかなるお出迎えと云えばよい。


暗雲垂れた空と海は其の境界線は定まらず薄ぼんやりと霞みおる。


海峡を渡る夏風はどこへやらむしろ半袖には肌寒い。


これぞ、津軽海峡夏景色には海鳴りどころか鴎すらいなかった。


潮流に乗ってか所どころで海洋に浮かぶ化学物質と云う名の浮遊物が矢鱈と目立った。


石川さゆりの世界からもうかれこれ四十年は経つのでしょうか。


科学技術力の躍進の落とし子で済まされるものでしょうか。


浮遊物は累々と浮かび白波と共に海の彼方へと流れ去る。


海峡の海に浮かび戯れるのも好いが五時間に近いロスタイムには乗る前までは全然気付かなかった。


道理で長距離便の大型トラックが目立ったがドライバーの仮眠時間には打って付なのでしょう。


 


函館には午後6時丁度に着いた。