老いのひとこと

イメージ 1




いつものように掛り付けのお医者さんの下へ行く。


受付で体温計と検尿用のコップが宛がわれるが今日はどうしたことか検尿がない。


悪い予感が走る。


先回の血液検査で異常が出て専門医送りの宣告を観念せざるを得ない。


平静を装いながら血圧と体重測定を受けた後通常なら採血に入るのだがどうしたことか略され心電図室へ送られた。


益々以って悪しき予感が募るばかりではないか。


重大宣告を覚悟した上医師の前に立てば先生は行き成り奇なる言葉を発せられたのです。


「たかはしさん、わかばが良いと思うのだがどうですか」と唐突にも尋ねられたがわたしには何のことか皆目見当が付かない。


わたしの表情を見た先生は「彼方のお家に近いわかば医院へ紹介状を書きました」と紙片をわたしに見せるがそれでも全然わたしには通じない。


両者が戸惑うなか看護婦さんがわたしの袖を引き別室にて事の次第を話されたのです。


先生が体調崩され今月一杯にて閉院の憂き目に在るとのこと、知りませんでした初めて知った出来事でした。


其の間の患者との意志疎通の経緯がどうなっているかは此のわたしには知る余地はないのです。


医師として患者の命を慮る最後の医術が此れ即ち一通の紹介状であることに其の時気付かされた。


わたしの命を託した主治医が消え去る意味を実感した。


殊更大っぴらには言い辛き病院名ではあるがわかばを避けて別の箇所をそっと告げたのです。