百聞は一見に如かずの言葉通り「政鄰記」の実物を此の目に納めてきた。
原寸大が縦135mm横195mmで細字が紙面一杯にぎゅうぎゅう詰めに書き並ぶ。
書損じ箇所は探す限り何処にもない、恐るべき几帳面さと忍耐力が要求されよう。
正隣の生真面目なお人柄がよく窺い知れた。
近世史料館にて学芸員のお方にお聞き致せば正隣自身の手による直筆だという。
少しばかり運筆書体が異なる箇所があるがそれでも正隣の肉筆に間違いないとおっしゃるので納得するしかなかった。
更に此処に在る現物は原本ですか写本ですかそれとも版本ですかと尋ねれば此れは原本であるとはっきり申される。
何せ此の政鄰記なる冊子は此の現物しか此の世には存在しないと明言されたのです。
確かに部分的に写し取った写本は在るにはあるが全31冊全巻は当館にしかないと解説されるのです。
此れはわたしの推察に過ぎないが正隣は9代藩主重教10代治脩、11代斉広に仕え大小将頭から馬廻頭を経て宗門奉行を勤め上げたが別段藩からの沿革史作成の命が下りたわけではなく密かに今流のライフワークとして精魂を傾けた記録誌で在ったのであろうか。
何故ならば此の世に一点しか存在しない「政鄰記」を津田玄蕃家の当主斯波蕃が家宝として保管するものを前田家へ寄贈するに及んだ。
其の折に表表紙に「政鄰記」の文字と所持した「斯波蕃」の名を貼付したのであろうか。
「政鄰記」は津田玄蕃家の分家筋の津田左近衛門正隣による私版本と云うことになるのでしょうか。
判らぬことが少し解明し本当に良かった。