老いのひとこと

全然記憶には無いが幼少期には路上で蹴つまづき幾度となしにひっくり返ったであろう。

誰しも転ぶのは当たり前で子どもの専売特許であろうが精々膝っこぶを擦り剝く程度でそれが男の子の勲章にもなった。

それ以来路上転倒には縁がなかった筈が到頭それを仕出かすお歳を召してしまいました。

靴の中で御御足が踊り居るダブダブの作業靴で体を横へ移動させようとした折に両足が縺れてバランスを失うやあれよあれよという間に我が体は右横向きにアスファルト路面に激突した。

右脇腹と顔面制動よろしく右頬骨あたりで着地した。

幸い畑に面した市道で誰も居ないことを確認した。

此の無様な醜態は誰にも見せたくはなかった。

自力で立てたが少々右頬がヒリヒリする恐らく軽い出血であろう。

ただどうしたことか左手親指の付け根辺りから滴り落ちて手の平が真っ赤に染まったが間もなく止まった。

右肋骨に多少痛みを感じたが其の日の農作業をなんとか終えた。

 

其の後10日間が経過した本日猶も肋骨下部に軽いしこりが残るので念のために小村先生に診てもらった。

巧いことにX線写真にも超音波検査にも骨異常なしのお墨付きを戴き大いに助かった。

 

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           

我がお袋は骨の打撲に起因して骨肉腫を患い四十九歳の短い命であった。

其の事がどうしても脳裏から離れず気になったが此れにて一先ず一安心できたのだが。

 

でも、逝かば諸共の腹を決めて置かねばなりますまい。