老いのひとこと

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鶏小屋のやっさんの畑を借りて耕しているが求めて所望したわけではない。


かと言って渋々不本意にただ応じたわけでもない。


やるからには喜び勇んで鍬を振るうのです。


春先のころ、やっさんに頼まれて菊の苗を何本か植え込んだ。


植え付くまでの暫しの間はせっせと水遣りにも精を出したがよくよく考えてみれば人様の作物にちゃべこらと世話を焼くおのれの行為に疑問符を投げかけるようになった。


借地の条件に斯様な取り交わしは一切ない。


それ以来わたしは菊畑を放置した、罪悪感はなかった。


他人様の物にあれこれ勝手に手を出すなとおのれに言い含めた。


そしてそれから一カ月以上も過ぎたでしょうか、ふと菊に目を遣れば何と雑草の中に埋もれてしまっているではないか。


わたしは何とも言えぬ強い衝動に揺り動かされて雑草を掻き毟りはじめていた。


変な感覚ではあるが地主の恩義に目覚めた小作人が義理に駆られて草をむしりはじめたのです。


その義理は地主への借りを返す必要性に気付いたことを意味しよう。


図らずも、かのベネデイクトの「菊と刀」の台本とよく似た現象を自分自身が独り舞台で演じている。


奇しくもわたし自身がベネデイクトが言う「恥の文化」を背負う典型的な日本人の一人であることを実証したことになりはしないだろうか。


菊花は取りも直さず国花に外ならず、ならばその国花を蔑にした或る種の強い罪悪感に襲われたと云っても言い過ぎではない。


あの方がおっしゃる愛国心とは少々異なるわたくし流の愛国心をわたくしは確と持ち合わせます。