うらなりの記《38》

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この画像と私とは何の関わりもない。
敗戦直後の貧困と混乱の中に於いても
この子らは屈託のない笑みを湛えている。
それに引き替え、その頃のわたしには笑顔はなかった。
笑うことを忘れ、笑うことを知らなかった。
何かに打ちひしがれたような澱んだ退廃的な眼つきで
全てに逃避的であった。
 
 
その三  父高橋忠勝(17)
 
万引き(上)
 
  朱に交われば赤くなる。主体性なく赤く染まる方に大いに問題があるのである。
 店内の混雑する人混みに紛れ、私はこの人海の真っ只中でひと際大きな荒波に呑み込まれてしまっていた。
その当時も片町通りに宇都宮書店が営業していた。勤め帰りや学生たちで店内は溢れんばかり盛況で大勢が行き来している。
この雑踏の中で瞬時の隙を見い出し、私は何食わぬそぶりで漫画の本を二三冊小脇に挟んでその場を急ぎ離れた。
片町通りを小走りで竪町通りへ差し掛かった折、見知らぬ人に呼び止められ、そのまま書店内の事務室に閉じ込められた。私は従順に従った。
矢継ぎ早に尋問が始まった。それにも私は従順に従った。