恒例の自家製沢庵漬けの材料を自家菜園より採取し、高橋川の岸辺で洗った。
三十本近い大根を、腰を屈めたままの作業では難渋するは当然。
足場の悪い足元を確認しながら、最後に残った一本を左手に右の手のたわしを当てがおうとした矢先左手の握力が無意識的に萎えて、水流に委ねるように一本の大根が見る見るうちに下流へと流れ去ってゆくではないか。
あれよあれよの云う間の出来事であった。
体力的に限界を感じ注意力が散漫となっていたのも事実。
やれやれあと一本となって、ほおっとした気のゆるみも手伝った。
どん詰まりの土壇場でドジを踏み、ケチをつけてしまう。
よくあることだ。まさに油断大敵なのです。
むかし、納刀の折手元が狂い、わが手を斬った。
恥ずかしい思いで道場の床を雑巾掛けした。
また、近間から来る相手に、潔くも遠間から飛び込み小手を繰り出したまではよかったが、物の見事に抜き技にてお面をパクリと、これまた物の見事に打たれたこともあった。
ドン傳返しに要注意!
勝負は下駄を履くまで分かりませんぞ。
“勝って兜の緒を絞めて”であり、残心あるのみだと思う次第です。
余談ながら、流れ去った大根をば難儀して追跡し、後刻捕獲せり。
みみっちい男に成り下がったものだ。
しみったれは好かん、嫌われ者なんだよと思いつつも我が内心はそれほどでもなかった。
これぞ、真の残心なりと心得たり。