老いぼれの居合稽古《12》

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雪国には珍しく冬の好天がつづく。
結氷する朝はさすが館内のフロアーとて凍て付くように冷たい。
かじかむ手の甲をわが手でハシッと打つ。
甲高い澄んだ音が静かな無人の館内に反響音として響き渡る。
少々痛いが、次は右手の甲を打つ。
漸く、刀を執る感覚を自覚するに至る。
一本目を納得できるまで抜く。
少しからだが温もる。
やがて、周囲に人の気配を察する。
いつもの紙飛行機のおじさん、ソフトテニスに興ずる常連の方々、そして卓球の板宮ご夫婦の活動開始と共に額谷ふれいあい体育館もお目覚めと相成るのです。
けたたましい歓声や甲高い嬌声に混じって元気良く哄笑される方も居られるのです。
賑々しく騒然たる様相を呈することもあろう。
わたしは黙々と独り抜く。
全く気にはならないと云えば嘘になる。
騒々しく感ずる時もあろう。
気が散って集中できないと思う時もある。
極力、邪心を抱かぬように努める。
極力、回りの雰囲気を気にしないように努める。
極力、雑念や煩悩を取り除こうと努める。
処が、上手く行かない、目を閉じてみてもダメなのだ。
明鏡止水の心境なんて飛んでもない。
ますます、よこしまな煩悩に取り巻かれるばかりだ。
これではただ単に棒切れを振り回す徒労を演じているに過ぎない。
何時になっても旧態依然としたおのれが嫌になるのです。
はやく、いろんな雑念を振り払って私事を取り払った静かな気持ちで居合を抜けれるような自分に脱皮いたさねばならない。
分かってはいるがそれが出来ない。
出来っこないと云ってもいいかもしれない。
 わたしに与えられた残り時間がだんだん少なくなるのです。