老いぼれの独り言

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どうしても大川小学校へ行きたかった。
何かしら引き寄せられる強い思いがあった。
車は大きな川を渡り切ったところで一面の原野に差し掛かった。
そこには黒く佇む無残な建物が目に飛び込んで来る。
その時、わたしは自分の重大な失策に気が付いた。
愚かなことに軍手と鎌は持ってきたものの肝心のお数珠を忘れてしまっていた。
とにかくも茫洋と広まる平地の草を刈り取るいとまはなかった。
せめて、花壇だけでもと目を注いだが雑草らしきものは些かたりとも見当たらない。
只ならぬご遺族方の胸中が痛いほど伝わって来た。
わたしは自ずと合掌の姿勢を為していた。
線香と数珠を失念したことを悔いた。
そして、その場に立ち竦めば目頭が潤み止めどなく涙が頬を濡らすのです。
やがて、運動場の外れの小高い杉木立の方からにこやかに笑い合う子らの清らかな声々が耳に響き渡ってくるではないか。
錯覚だとは知りながらも憚ることなく堰を切ったように涙が零れ落ちていた。
 
“わたしたちはそんなに悲しくはないですよ。”
“あの日のこと、そんなに気にしてはいないですよ。”
“みんな、あの頃と同じように健やかにしていますよ。”
“だから、お父さんお母さんをはじめ大人のみなさん方そんなに気に懸けないでくださいね。”
“わたし達の為にあらがうことはやめてください。”
“それよりも命の大切さ平和の大切さを美しい笑顔で全世界に語り掛けましょう。”
健気に声を合わせて訴えてくるではありませんか。
なんとも不思議な心情に導かれて暫しのあいだ佇んだのでした。
機会あれば、わが孫たちにも此の心境を味合わせたい。
願わくば、日本國中の子供たちに此の地でこころの震えを体感させねばならない。
世の教師たるもの取り分け初任者たるものはみなこの原野に立ちて手を合わすべきだと切望する。
いや、行政に携わる者のみならず経営者も為政者も殊の外トップに立つ者はこの地で自らが「厳粛な真実」を学び取らねばなるまい。
軽々たる判断が結果的に怖ろしき弊害を累々として末代にまでも及ぼすことを学び取らねばならない。
 
この子たちの尊い命を無駄にしない為にも此の地を永久保存して後世に託して行かねばならない。
此の地を風化させることだけは絶対に避けねばならない。
その為にお役に立てること有らば非力なる身ではあるが何でもやり抜くことをわたしは誓った。
 
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