実に堂々とした益荒男らしい勇猛心を鼓舞するにふさわしい「忠烈」の二文字を見てきた。
精魂込めてしたためる躍動感溢れる筆勢に只々驚くばかりであった。
大筆の毫(ごう)を渾身の力で揮(ふる)っていられるお姿が目に浮かんだ。
樋口季一郎は単なる一軍人に非ずして此処金澤に衛戍地(えいじゅち)を置いた第九師団所縁の人物であり、のみならず満ソ国境に彷徨う萬を数えるユダヤ人難民に愛の手を差し伸べ人道博愛精神から人命救助を断行なされた物凄い勇気の持ち主に他ならないのです。
先日、当神社に寄贈せし樋口季一郎肉筆の掛け軸一幅を万難を排してでも此の扁額の脇に掲げて戴けるように請願し続け懇願の為にあらゆる手段を講じなくてはならない。
寄贈の作品が此の護国神社の倉庫の片隅に埃を被ったまま眠りこける醜態だけは何としても避けねばならないのです。
あの一副の掛け軸が此の世に埋もれることなく活路を見い出し得るように努める事こそが此のわたくしに課せられた大きな使命だと自負いたすのです。