まるで恋人にでも逢いに行くようなワクワクそわそわした気持ではありませんか。
いそいそとペタルを漕ぐお目当ての可愛い子ちゃん目指してセッセセッセとペタルを踏む。
登りの難関何のそのルンルン気分で突き進む。
いよいよ額四峠に差し掛かれば高鳴る心臓ドッキンと息遣いハアハア全神経を両目の焦点に絞り込む。
しょぼくれた視力ではあるがまだまだ通用する。
竹藪の隅から隅へ耽々と見回せどどうしたことか居ないではないか。
そんなはずはない居ないはずはないと血眼に捜すおのれにおのれ自身が薄気味悪く感じてしまったではないか。
わたしの脚はおのずと林道に沿って山道をよじ登る。
生い茂る藪の中は薄暗くカラスが騒ぐ急降下し攻撃的だ。
ヒナ防御のしぐさだ、着帽するが小枝を振り回し頭上を守らざるを得なかった。
藪を抜け頂きに出たがやはり居ない、四方八方へ目を配り強か捜し回るがやはり駄目だ。
これは明らかに裏切られたに等しい、諦めて帰路に付こうと元来た道を歩み始めたその矢先にわたしは生き物の気配を察知したのです。
既に夕暮れが迫ってはいたが谷を跨いだ向いの山肌に紛れもなくカモシカ君一匹をわたしは此の目で確認したのです。
素っ頓狂な奇声を発したことは覚えている。
恰も発狂したかのように意味不明な言語を発しながらわたしはわたしの麗しき恋人と暫し会話を交わし合ったのでした。
わたしの存在を知り草むらに隠れた身を曝け出して
わたしへシグナルを発し訴えてくれたに相違ない。
人間と野獣が以心伝心するなんて聞いたことがないのです。
その間は凡そ数十メートルはあろう。