老いのひとこと

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物置の隅には鍬やスキの農具、農薬や石灰に化成肥料の類が埃をかぶる。


また、翔の名のグラス製弓に矢6本矢筒にユカケなどが無造作に放置されたままだ。


此処最近はどうしたことか作陶意欲が遠のいてゆく。


よもや、これまでもが流れ去ることがないように額四峠の四十万土だけは常に我が座右に侍らし置くのです。


 


熱しやすく冷めやすい、ヤカンと云うらしいが此のわたくしは典型的な近惚れの早や厭きさんに違いない。


困ったことだが此れが此の偏屈者の処世術の一つなのかも知れない。


 


それにしても唯一孤塁を守る様に囲って参ったのが高橋流剣術なのかも知れません。


他流仕合に備えるためではない、地獄の門前で閻魔大王さんに披露したい一心から、叶なら大王さんと剣を交えてみたい。


阿呆臭い望みをつなげて日々老躯に鞭打つお馬鹿さんなのです。


ところが何分老躯ゆえ傷みが激しい、とうとうガタが来て足が引き摺りはじめたではありませんか。


でも、これだけは如何なることがあろうとも手放すわけにはいかない。


死守いたさねばならないのです。


これを捨てたら男が廃る人間が廃りわたくしのアイデンデテイが失われ生ける屍と化すだけなのです。


脚が疼く、前へ一歩踏み出すことができない。


でも、否応なしに日曜日はやってくる、休むわけにはゆくまい。


万難を排し身支度をし胴着に着替え腰帯をきりりと結え綿袴姿で鶴来道場へと急ぐ。


何分本日は防具は無理だ、防具は不要と判断し木刀だけを携え道場へ乗り込む。


待ち受けるは若き精鋭山内剣士と剣道形を打ち合う。


強張った足捌きではあるが何とか二十本遣り遂げた。


達成感を頂き大いに満足した。


よくぞ傷める老体を相手にして給うた、深く感謝あるのみ篤く御礼申し述べたい。