ある初秋の好く晴れた日に藤棚の下で隼人少年は一匹のジョローグモの幼虫を見付けた。
一筋の糸を垂れて空中ブランコで遊ぶ蜘蛛の子を少年は巧みに捕らえて手のひらの上で上手に操っている。
カンダタって知ってるかと尋ねたが知らないと云う。
カンダタの話を持ちかけようと思ったが場違いなのでしないことにした。
最近の都会っ子はどうしたことか極端なほど昆虫を忌み嫌い且つ恐れて触ろうともしない中此の隼人君は頭からの大自然っ子に育つ。
木登りが得手でよく藤の蔓が絶好の遊び場となる。
年寄りばかりのラジオ体操の輪に仲間入りし恰も体操選手に成り済まして躰を動かす。
少年は居心地が好いのか夏休み以来欠かさず此処に顔を出す。
今時実に稀有なる少年である。
小学1年生には少々難しかろうとは思ったが龍之介の「蜘蛛の糸」を拡大コピーしてプレゼントすることにした。
後日、隼人は颯人君と知り恐縮した。