偶然にもガラクタの中から変わった物が出て来た。
先ず第一斯くなるものが自分の手許にあること自体判らないし不可解だ。
恐らくは本家の当主利治が見付けだし届けてくれたのだろうが其のこと自体完璧に頭から失念していた。
此れは間違いなく父忠勝がわたくしの22の歳に厄除け安全祈願をしてくれた証のようだ。
あの当時父が日蓮宗に関与した話は何処からも聞かされてはいない。
実に不思議だ。
只あの当時わが父は口には出せない苦節のど真ん中で困窮のどん底にいた事は想像に難くはない。
妻トシと死別し男所帯を切り盛りしながら三人を養育した。
苦し塗れに南無妙法蓮華経に傾きふらりと縋り付いたのだろうか。
いや、そうではない父を慮った知人の誰かが推挙した裏わざに過ぎなかろう。
今夜は父と盃を交わしながら父の本音を是非とも聞かせて貰わねばなるまい。