下手糞老いぼれ剣士の独り言

タイトル、下手糞老いぼれ剣士はいかにも捨て鉢的で自嘲気味だ。取分け老いぼれはよくない。
今日の犬の散歩はいつもより早かった。旧年中には時折お遭いしていた、大正6年生まれの大翁に今年初めて遭遇した。
 拝顔できた喜びの気持ちをお伝えして暫しの歓談あり。翁は胃癌を患い全部摘出しまった由、依って体重が45キロから40キロと身軽になり返って体調万全なりと申される。
 わずかばかりのお酒だが以前に倍して賞味する一時が楽しいのだという。
 翁は胃をなくしたが、同時に無理をなくし無駄もなく、無茶なことなく生きることの大切さを静かな口調ながら鋭く切り込まれた。
 翁は剣とは無縁の人ではあるが、計らずも剣の理にいう三無の教えの手ほどきを戴いたことになる。
 赫灼としたお声の張り、鋭き眼光の輝き、翁からお見事な一本を頂戴しました。参りました。ありがとうございました。
 老いぼれてはいけないと無言の忠告を戴いたことになる。剣の師匠は何処にでもいらっしゃることを知った。
 翁が立ち去り際に言われたことは、以前に道すがら顔を合わせたお方に出逢えないことは寂しい事ですねと、そして付け加えて此の裏通りにみた静かな風情の媼のお姿が見当たらないのだと回想された。
 大正6年は西暦1917年で、此の年にレーニン率いるボリショビキ党によるロシア革命が勃発しているのである。

 帰りしなに、奇しくも翁が口にされた媼と出くわした。先ほどの話を語れば媼はうっすらとはにかんだ。

春が来て  往き交う面面  入れ替わる