うらなりの記《33》

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このお地蔵さんは、弟鉄二が生前に自らの手で作ったものだ。
今、玄関先に鎮座し我ら一族を見守ってくれている。
 
弟は地蔵菩薩に姿を変え、悪業の祟りに苛まれ続けている
愚かなる此の兄貴の極道に対し救済の眼差しを届けてくれているのです。
 
あの時にも、仏の慈悲心をわたしに施してくれたのでした。
 
その三  父高橋忠勝(12)
 
何と言えばよいことか私は、愚かにも小学一年生の弟鉄二に見張りを強要していたのである。
私からの見返りなどあろうはずがないのに今以て、鉄二は頑なに事実を否定し私を庇うのである。
破廉恥なる兄貴の愚行を目の当たりにしながらも、唯一の生き証人たる弟鉄二は仏の慈悲心を私のために貫き通した。
何事もなかったように平然として、弟は仏に生りきって見て見ぬ振りを私のために貫き通してくれた。
いずれにしろ弟鉄二は七歳にして、その間の出来事の一部始終を刻明に細大漏らさずに記憶していたのである。天晴れと言うしかない。
 
真実、弟鉄二は仏になってしまったのだ。