独り言

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武道館へ稽古始めにおもむく。
寒波も遠のきおだやかなり。
道場の床も凍てつくさまからほど遠く、むしろ木目の温かさを感じた。
静寂の中、袴捌きの音と摺り足の微かな摩擦音、あちこちより空気を切り裂く刃音が心地よく耳に届く。
D師範より、四方切りに際し目線が死んでいる、敵を確と見据えて演舞しないと技そのものが死んでしまいますよと指導いただいた。
舞いや踊りではありませんよ。
心のこもらない単なる所作だけなら、大怪我のもとですよ。そのような教えのようにも伺えた。
成程なりと、大いに納得せり。
処が、全剣連制定居合十二本を全員で一斉に演ずる最中、七本目三方切りで案の定失敗を仕出かしてしまった。
正面の敵を、柄頭で牽制しながら抜き始め
右の敵を振り向きざまに斬り付ける折、切っ先の鞘離れに異変が生じ一瞬ヒリッと感じた。
やっぱり、やった。失策だ。
漫然とした気の緩み、集中心の欠如、何とも恥ずかしい。
大きな失態にならぬように左人差し指へ目をやったが、幸い米粒程度の出血で済んだので、何食わぬ顔で演舞を続けた。
もっとも、その後滲み出た出血が指全体を被ってしまったが大事には至らなかった。
年寄りの冷や水と笑われるようなことを仕出かしてしまったが、わたしは居合をする者にとっては不名誉ながらも一つの勲章なのだと自分では苦笑いしている次第なのです。
刀傷は瞬時にして治るものだと信じている者でもあります。
水道水で洗い流し、すべてを水に流すことにした。